日本の地方銀行, 32行が上海に拠点設置 [記事から読む-“これからの中国経済”]

img_7ec8f5da65a5469609118d4dfa5814c712136.gif
日本の地方銀行, 32行が上海に拠点設置。中国金融市場に打って出た日本の地銀の“明暗”

【第70回】 2011年3月11日  姫田小夏 [ジャーナリスト]

日本の地方銀行が中国に構える拠点の数が増えている。今年3月には群馬銀行、第四銀行が加わり、上海だけでも32行(2011年3月現在)が駐在員事務所を置いている。日本の地銀は63行(2011年2月現在)、その半数以上が中国に出たというわけだ。

「取引先から中国事情を尋ねられて、いまどき『知りません』では通用しない」と某地銀担当者は語る。第4次中国進出ブームが本格化し、取引先が中国進出を加速させている今、中国進出支援をはじめ、貿易・金融などの情報提供、市場調査とこれらビジネスサポートが必須業務となってきている。

 地銀側にも中国に出ざるを得ない背景がある。景気の見通しが悪い日本で、ビジネスの行き詰まりに危機感を持つのは地銀も同じだ。融資額を増やすことは困難、金利を落として利ざやを削り、体力の弱い信用金庫や第二地方銀行などと合併することでしか生き残る道はない。

 これだけ増えた地銀の中国拠点だが、中国における地銀の存在意義を問う声もある。日本の金融ジャーナリストは語る。

「地域の金融として地元の取引先との共存共栄という、ウィンウィンの関係を目指すという理屈はわかる。しかし、駐在員事務所開設でかけたコストを回収できる見通しはあるのだろうか」

 確かに中国において地銀ができる業務は限定的だ。規制の厳しさから金融取引は容易にできず、圧倒的多数が情報収集拠点としての駐在員事務所を置くに過ぎない。こうした状況を「事実上、サービスによるダンピング合戦だ」とする厳しい意見もある。

「コストばかりで実利なし」も 上海の地銀、明暗くっきり

 上海事務所に駐在するある地銀職員は、「上海に30行も集まる地銀の駐在員事務所だが、元気がある地銀とそうでない地銀にくっきりと明暗が分かれる」と話す。

 元気がないのは、実利がとれないことを理由に、周囲が駐在員事務所の必要性を認めたがらないことに起因する。

駐在員事務所を開設し、日本からも職員を派遣し、さらに現地でもローカル職員を雇用と費用はかさむ一方。職員を1人駐在させれば、住宅やその他の手当で年間2000万円はかかる。また、中国における駐在員事務所は収益を生まない出先機関でありながら、2010年2月から法人税の課税対象になっている。これにより、年間200~500万円の経費の負担増となった。

 他方、中国に出向する行員らは、現地に進出する取引先の手足となり、情報を提供、視察に同行し、企業マッチングをし、と奔走。そうしなければ、上海での取引先も、また下手をすると日本の親会社との取引も都市銀行に取られてしまう可能性もある。

 しかし、周囲は“コスト垂れ流し”の厳しい視線を投げる。取引先に手数料を課金することは困難、苦労してもなかなか融資に直結させることができず、数字には現れないからだ。

中国進出の歴史と実績を誇る 「やまぎん」の一人勝ち?

 
Yamaguchi_Bank_main_office.jpg
山口銀行 本店

 その一方で、実利に結びつけている地銀もある。今、中国市場では山口銀行が独走中だ。地銀では唯一、人民元を取り扱い、現在、進出日系企業との各種取引(貸出、預金、外為)を本格的に行っている。

 山口銀行の中国ビジネスの歴史は古い。1985年11月に青島事務所を開設、93年2月に青島支店として営業を開始。多くの地銀がNY、ロンドンを目指していたその時期に、目はアジアに向いていた。

 山口県と山東省、下関市と青島市が姉妹都市関係にあるという縁に加え、当時すでに取引先が青島への進出を加速させていたこともある。そのため、早くから中国業務の素地を築き、04年9月には人民元業務開始にこぎつけた。

 確かに利益も出ている。昨年末に起きたある“事件”は動揺を招いたが、逆にそれを裏付ける格好にもなった。

昨年12月29日、中国国家外貨管理局は日本の山口銀行をはじめとした16行79支店を、規定違反の取引を理由に罰金や一部業務停止にしたとの発表を行った。中国政府が警戒するホットマネー流入に荷担したというのがその理由だ。処分の対象となったのは中国国有大手の中国工商銀行、中国農業銀行、中国建設銀行、中国銀行など。邦銀では山口銀行がその対象となった。

 これに対し山口銀行は、「投機資金流入に係る違反は一切なく、中国から日本に向けての利益送金にかかる報告書への記載漏れについて指摘を受けたもの」と否定。

 ちなみに、これは同行の青島支店が2007年度、08年度における税引き後利益を、本店宛に利益送金をしたものについての記載漏れ。中国の外貨管理局がホットマネーの流入、外貨売買、オフショア金融などに対し網羅的に行う検査の中で、この「記載漏れ」が引っかかったという。「利益送金に違法性はない」と同行はコメント、結局、同行には業務停止処分ではなく、反則金10万元(約130万円)が課されるのみにとどまった。

「中国は確かにリスクもあるが攻略しがいのある市場。進出は正しい判断だったと思っている」と山口銀行幹部は語る。

人民元業務に 横浜銀行、名古屋銀行が追随

30-hamagin.jpg
横浜銀行 本店
 
 この人民元業務に関心を寄せる地銀は少なくない。上述したように“日本市場の限界”という理由もあるが、そもそも中国市場は「宝の山」だからでもある。「法律や規制は日本以上に厳しいが、うまみがあるのも間違いない」と別の地銀幹部は話す。

 中国は固定金利であるため、調達してきた資金に4%の金利をつけ、6%で貸し出せば2%の利ざやとなる。100億円融資したら、2億円の利益だ。日本で、もはやこれほどの儲けは生み出せない。

相手が日系企業ならば債権回収のリスクも低い。そもそも中国の土地は国家の所有。土地そのものに担保は設定できないため、本社もしくは取引銀行に保証をつけることになるからだ。ちなみに山口銀行は融資先の100%近くが日系企業であるため、貸し倒れというケースはないと言う。

 中国では、都銀はみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行の3行が人民元業務を行っている。地銀の横浜銀行と名古屋銀行も人民元業務に乗り出す動きだ。

280px-名古屋銀行本店.jpg
名古屋銀行 本店

 横浜銀行は09年、上海の駐在員事務所を支店に昇格させた。目下のところ、外資系企業及び外国人を対象とした外貨建て業務を進めている。名古屋銀行は2010年4月、江蘇省南通市で南通支店の認可を取得した。同市は地元名古屋周辺からの繊維企業や精密企業の進出が多い上、メガバンクの進出もない。狙うのはエリア密着型のサポートだ。

 2行が人民元業務に着手するのはまだ先。中国の「外資銀行管理条例」は、「開業3年以上、2年連続黒字経営」が達成された場合に人民元業務が申請できると規定している。

 そのプロセスは、銀行管理監督局(銀監局)への支店設立の打診から始まり、申請、審査、検査と非常に日数のかかるものとなっている。また最近、中国政府は不動産市場に流れ込むホットマネーを警戒、経済を過熱させることにもなるという理由で、銀行への営業許認可は付与されにくくなっている。

中国金融市場における 日本の地銀の存在意義とは?

 そもそも、企業体力、営業基盤で勝るメガバンクに地銀がどれだけ太刀打ちできるのだろうか。

 確かに地銀のマンパワーはメガバンクに比べ圧倒的に不足している。メガバンクは1行当たり日本人駐在員を100人単位で赴任させているが、山口銀行青島支店の全スタッフは25人にとどまる。うち日本人スタッフはたった5人だ。「足で稼ぐ」はずの地銀、その営業力は自ずと限界にぶち当たる。

にもかかわらず、山口銀行は中国で取引先数を伸ばしている。地銀間の情報のつながりで「うちの地元優良企業のA社が、中国で資金調達できなくて困っている」と、他行からの電話が山口銀行に入ることもしばしばだ。中国は高金利だが、実際に工場設立や設備投資案件で融資額は増えている。

 また、こんな取り組みもある。東京都民銀行は09年、上海に100%出資のコンサルティング法人を設立した。取引先をサポートしながらコンサルやアドバイスで実質上の利益を生み出している。

 東京都民銀行アジア室の岡田道樹室長は、「顧客の横に立つのは常に当行でありたい。顧客に成長してもらうためにもウェットにつきあいながら、ウィンウィンの共存共栄を目指したい」と話す。

 さて、先日ある集まりで上海出身の弁護士が皮肉混じりにこんな発言をした。「日本の地銀は上海に多いけれど、中には毎日ゴルフに忙しい事務所代表や、午前中はいつも不在にしている代表もいる」。上海の地銀の事務所に明暗が分かれていると前述したが、まさにこれは「暗」の部分だ。

 そうなってしまう理由のひとつに「横並び」という日本の金融業界独特の体質が指摘される。日本の専門家は「銀行ほど横並びの業界もない。他行が駐在員事務所を出せば、『ならばうちも』と追随しているだけという可能性も否定できない」と指摘する。

 90年代のバブル期は、NYの地銀の拠点は37行にまで膨らんだ。それほどのラッシュが見られたものの、2010年夏は9行に減少した。中国でも同じ事が繰り返されるのか。ブームに流されない、ビジョンある進出が求められている。
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学校

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。